「あんたが来るのを待ってた。これ外してほしい。」
これっていうのは両手にしているピンクのミトンだ。
勝手に鼻の管を抜かないように手にミトンをはめている。
「それ嘘言ってるんじゃないだろうね。」
「嘘じゃない。」
その辺歩いてるピンクの服を着た看護師さんを捕まえて、
「私が来たらミトン外してもらえるって言ってるんですけど。」と言ったら、
私が対応しますと言って、
白い服着た担当の看護師さんが一緒に部屋に入ってきてくれた。
「ご家族がいる間は外しても良いですよ。」
本当はもうちょっと早く着くつもりだったんだけど、
今日は米を仕込んだり、おかずを作ったり、
朝飯用のサンドイッチ作ったりして、
出る時間が押してしまった。
ミトンを外してもらいながら、
遅くなって悪かったね、と謝った。
外してもらって早速頭触ったり腕触ったりしている。
良かったねかーちゃん。
木曜にたんぽぽハウスで買った、
新しいエプロンドレスを見せる。
「インド更紗だね。」
この年には派手かもしれないが、赤とオレンジで、
緑の唐草模様と紺の象さんの絵が入ったインド更紗だ。
「見つけて迷わないですぐ買わないと、すぐなくなるからね。」
さすがかーちゃん。
よくわかってらっしゃる。
平井のお洋服屋さんはどこに行ってもそうだ。
たんぽぽハウスはリサイクル屋だが、
たまに吊るしの新古品が出る。
この象さんのエプロンドレスは新古品だ。
長年吊ってあっただろうし、
色落ちしそうだったのですぐに洗った。
今日もかーちゃんのご飯の時間にかち合う。
今日もあのカロリーメイト風流動食だ。
胃に直接鼻からのチューブで送られるので、
噛みはしないが、お腹が落ち着いてきたのだろう。
食べながら寝ている。
そっとして、喋りかけないで、居れるだけいた。
かーちゃんの個室の窓から外を見たら、スカイツリーが見えた。
帰り際目を開けたので、今日はもう帰るよ、明日また来るよ、
と顔を覗き込んで退散。
今日は米を炊かねばならぬ。
さっきスイッチを入れた。
昨日書き忘れてたけど、昨日の夜の担当看護師さんが、
私が面会している時に部屋に入ってきて、
かーちゃんの顔を見ながら、
「お肉を食べて詰まっちゃってここに来たんですよ。」と言った。
この人が知っているということは、
他の看護師さん全員この事実を知っているということか。
恥ずかしいというか。
隠しきれないというか。
別に悪いことをして入院したわけじゃないので、
隠す必要は全くないのだが、ちょっとだけ恥ずかしい。
何故恥ずかしい? と聞かれても、
恥ずかしいものは恥ずかしい。
なんとなく恥ずかしい。
さぁ、ご飯を食べよう。
今日はかーちゃんと食べる予定だった、肉味噌レタス。
この間作った時に辛みが足らないとおっしゃっていたので、
今日は試しに豆板醤小さじ1入れてみた。
いつも作る分量で作ったので、何日間か同じおかず。
それでもいい。
私が倒れないように食べなければならない。
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